大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

まさきたま「TS衛生兵さんの戦場日記」

「戦争は更に十年は続くだろう。明日も生きていられる保証がないこの場所で突撃兵やって、十年間も生き延びられると思うか?」

前世でFPS廃人だった主人公が転生した先は、前世の知識など役に立たない本物の戦場だった……というお話。

これは過酷。死がこんなにも間近で、同僚も仲良くなったら、あるいはなる前に死んでいく。衛生兵としてほんの少しだけ優遇されてるけど、生き残ってるのはたまたまと言ってもいい。
前世チートなんてまるでない。
一番キツいのは、この戦争に終わりが見えないことですね。

今日生き残れても、一ヶ月先はわからない。そして10年続いてるなら、10年続くかもしれない。そりゃ諦めの境地になるわ。
まだ、どういう感じに話が進むのかぜんぜんわからないので、続きは読んでみたい。

 

カレン・M・マクマナス「誰かが嘘をついている」

同級生のゴシップを暴いて恨みを買っていたサイモンが、居残り授業の最中に亡くなり、教室にいた四人の生徒が容疑者となった。証拠はない。だが、彼ら彼女らはサイモンに秘密を握られていることがわかり……というお話。

 

面白い。

 

容疑者全員が語り手になるので、何かを隠していることはわかるので、それがバレたらというドキドキがもう。

他人から評価されることの価値が、SNS等によって強くなってしまった現代は、レールから外れることに対するプレッシャーが大きいですよね。学校という空間では特にそう。

このお話の良いところは、周りから爪弾きにされていく彼ら彼女らが、変わっていくところです。悔しさに泣くこともあるけど、周囲の圧に負けず、容疑者同士が手を取り合って前を進む姿は、青春だった。

初めはイケすかない人たちだと思ってたのに、最後の方には、お前らのうちの誰かが犯人とか絶対やめてくれと願いたくなるぐらい、好きになっちゃったもんなあ。この時点で負けですよ(何のだ)

ほんと面白かった。

 

青崎有吾「地雷グリコ」

これは最高に面白かった。

文化祭の出展場所を、抽選ではなくゲームで争うというお話から始まる連作短編5編。

ゲームと言っても難しいものではなく、既存のものに一捻り加えたものばかり。

地雷グリコでは、じゃんけんの「グリコ」に10段下がる地雷を設置できるというルールが追加されるんだけど、それだけでこんな心理戦になるとは。絶妙な匙加減。マジでカイジ

 

坊主めくりの神経衰弱や、じゃんけんにもう一つの手を加える自由律じゃんけんなど、どのゲームもいかに相手を自分のルールに乗せるかというお話で面白い。相手を読み切ったと思った後の逆転に次ぐ逆転劇が痛快だった。最高。

 

エルヴェ・ル・テリエ「異常【アノマリー】」

面白い。

何ら情報入れないで読んだので、こんな話になるとは予想外だった。解決らしい解決がないから、最後はモヤっとするけど、とはいえ面白いことに変わりはない。ストーリーテリングだったなあ。ミステリーではなく、SFですね。

 

何を言ってもネタバレになるので、気にする人はそっ閉じで。

 

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栗原ちひろ「サトリの花嫁2」

「私は勝手に医者になり、勝手に恋をいたします。けして、誰かを救うためではございません。私がそうせずにはおられないから、勝手にやるのです!」

恵まれない生活から救ってくれた旦那様の病気を治すために、サトリと呼ばれるほどの観察眼を駆使して医師を目指す主人公・蒼を描くシリーズの第二弾。

 

天涯孤独で差別されながら生きてきた前作とはまったく違う。その反動たるやもう。

城ヶ崎家に嫁ぎ、夫婦となった二人は、お互いがお互いを思って動き、そしてそのことに感謝と感動を覚える。これは側で見る執事の微笑みが止まらなくなるわけですよ。旦那様こと宗一の心の声がだだ漏れで、読んでるこちらも困ります。ニヤニヤし過ぎて。

 

今回は、吸血鬼騒動に始まり、温泉旅行でほんわかしたと思ったら、蒼の両親に関する事実が見えたりと盛り沢山。どの謎も真実の苦さが痛い。でもその苦さに立ち向かう蒼の覚悟が素晴らしかった。そうですね、今は城ヶ崎蒼ですもんね。

あとがきでボーナストラックと書いてましたけど、これは続けてほしいなあ。

 

辻村深月「家族シアター」

真面目な姉を鬱陶しく思う妹。趣味で反発し合う姉と弟。うまく息子と話せない父。娘の考えていることが理解できない母などなど、家族を描く7編の短編集。

どのお話も価値観とコミュニケーションのズレが、ギクシャクを生んでいていたたまれない。
家族というのは、一番近くにいる他人なわけで、その距離感の難しさたるや。相手を思っていても伝わるとは限らず、相手が何を考えているかわからない。かといって、通じないわけじゃないから、おかしなものですね。

どのお話も良かったけど、一番好きなのは、「タイムカプセルの八年」かな。大学の先生をしていて、世間的な関心事があまりなく、子どものことなんてさらにわからない父親が、これまでだったら絶対にやらなかったであろうサンタクロース的なことをするというお話がね。決して自分からは言わないだろうけど、息子には伝わっているであろう、距離感が良かった。

 

 

サンドローネ・ダツィエーリ「パードレはそこにいる」

「あの子どもにどんな運命が待ち受けているか、わかりますか。一生とは言わないまでも、何年も囚われの身になるんです。精神的暴力、肉体的暴力。言われたとおりにできなかったり、逆らったりしたら、いつ殺されるかわからない」

「あなたと同じように、ですね?」

「そうです。ぼくと同じように」

めちゃくちゃ面白かった。

PTSDで休職中の警察官コロンバと、誘拐され11年監禁されていた過去を持つ失踪人捜索のエキスパート・ダンテのコンビが、子どもの失踪事件の調査に駆り出されるお話。

どちらも心に抱えてるものが大きすぎて、捜査どころか日常生活を送ることも難しいのに、そのふたりがコンビを組むんだから、うまくいくわけがない。序盤のすれ違いのじれったさといったら。でも次第にいいコンビになってくるんですよねぇ。

自分と同じ境遇の子どもが生まれてしまうかもしれないというダンテの考えは、過去に囚われすぎな気もしていたけど、犯人の示唆が絡み合ってくると、展開の不気味さにページを捲る手が止まらなくなる。  

それにしても、上下巻でこんなに話が変わりますかね。上巻は通常の捜査で、下巻は追い詰められていくサスペンス。

パードレ(父親)はいるのか。何を目的とするのか。話が大きくなりすぎて荒唐無稽にも思ってしまいますが、いろいろな形の「家族」の姿を見られてよかったです。

これは続編も読んでいこう。