大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

エルヴェ・ル・テリエ「異常【アノマリー】」

面白い。

何ら情報入れないで読んだので、こんな話になるとは予想外だった。解決らしい解決がないから、最後はモヤっとするけど、とはいえ面白いことに変わりはない。ストーリーテリングだったなあ。ミステリーではなく、SFですね。

 

何を言ってもネタバレになるので、気にする人はそっ閉じで。

 

続きを読む

栗原ちひろ「サトリの花嫁2」

「私は勝手に医者になり、勝手に恋をいたします。けして、誰かを救うためではございません。私がそうせずにはおられないから、勝手にやるのです!」

恵まれない生活から救ってくれた旦那様の病気を治すために、サトリと呼ばれるほどの観察眼を駆使して医師を目指す主人公・蒼を描くシリーズの第二弾。

 

天涯孤独で差別されながら生きてきた前作とはまったく違う。その反動たるやもう。

城ヶ崎家に嫁ぎ、夫婦となった二人は、お互いがお互いを思って動き、そしてそのことに感謝と感動を覚える。これは側で見る執事の微笑みが止まらなくなるわけですよ。旦那様こと宗一の心の声がだだ漏れで、読んでるこちらも困ります。ニヤニヤし過ぎて。

 

今回は、吸血鬼騒動に始まり、温泉旅行でほんわかしたと思ったら、蒼の両親に関する事実が見えたりと盛り沢山。どの謎も真実の苦さが痛い。でもその苦さに立ち向かう蒼の覚悟が素晴らしかった。そうですね、今は城ヶ崎蒼ですもんね。

あとがきでボーナストラックと書いてましたけど、これは続けてほしいなあ。

 

辻村深月「家族シアター」

真面目な姉を鬱陶しく思う妹。趣味で反発し合う姉と弟。うまく息子と話せない父。娘の考えていることが理解できない母などなど、家族を描く7編の短編集。

どのお話も価値観とコミュニケーションのズレが、ギクシャクを生んでいていたたまれない。
家族というのは、一番近くにいる他人なわけで、その距離感の難しさたるや。相手を思っていても伝わるとは限らず、相手が何を考えているかわからない。かといって、通じないわけじゃないから、おかしなものですね。

どのお話も良かったけど、一番好きなのは、「タイムカプセルの八年」かな。大学の先生をしていて、世間的な関心事があまりなく、子どものことなんてさらにわからない父親が、これまでだったら絶対にやらなかったであろうサンタクロース的なことをするというお話がね。決して自分からは言わないだろうけど、息子には伝わっているであろう、距離感が良かった。

 

 

サンドローネ・ダツィエーリ「パードレはそこにいる」

「あの子どもにどんな運命が待ち受けているか、わかりますか。一生とは言わないまでも、何年も囚われの身になるんです。精神的暴力、肉体的暴力。言われたとおりにできなかったり、逆らったりしたら、いつ殺されるかわからない」

「あなたと同じように、ですね?」

「そうです。ぼくと同じように」

めちゃくちゃ面白かった。

PTSDで休職中の警察官コロンバと、誘拐され11年監禁されていた過去を持つ失踪人捜索のエキスパート・ダンテのコンビが、子どもの失踪事件の調査に駆り出されるお話。

どちらも心に抱えてるものが大きすぎて、捜査どころか日常生活を送ることも難しいのに、そのふたりがコンビを組むんだから、うまくいくわけがない。序盤のすれ違いのじれったさといったら。でも次第にいいコンビになってくるんですよねぇ。

自分と同じ境遇の子どもが生まれてしまうかもしれないというダンテの考えは、過去に囚われすぎな気もしていたけど、犯人の示唆が絡み合ってくると、展開の不気味さにページを捲る手が止まらなくなる。  

それにしても、上下巻でこんなに話が変わりますかね。上巻は通常の捜査で、下巻は追い詰められていくサスペンス。

パードレ(父親)はいるのか。何を目的とするのか。話が大きくなりすぎて荒唐無稽にも思ってしまいますが、いろいろな形の「家族」の姿を見られてよかったです。

これは続編も読んでいこう。

 

 

 

夕木春央「方舟」

「要するにこういうことだな?ここを脱出するためには、誰か一人が、この水没しようとしている地下建築に閉じ込められなければならない。
そして、地上に出たとしても、救援を呼ぶにはかなりの時間がかかる。その間は、建物が水没していくのを黙って見ているしかない。だからー
俺らが助かるためには、ここにいるうちの、誰か一人の命を犠牲にしなければならない。誰が地下に残るのか、考えなくちゃいけないね」

これは最後の展開を作り出すために、設計されたお話だなあ。

たぶん誰もがこんな状況に陥るか?と思いながら読むと思う。いや、地下建築に入るという状況以外は、無くはないかもしれない(これが一番問題なんだけど)。普通じゃない状況で殺人事件が起きて、素人が思いつく以上の手がかりがなかったら、先送りしていくのはわからなくもない。
というか、ミステリーのお約束を逆に使っているから、ツッコミどころを感じるのかも。

無理を感じるお話なのに、謎はロジカルに解かれていく。最後のどんでん返しが見事。

 

 

ヨルン・リーエル・ホルスト「警部ヴィスティング 鍵穴」

「政治家のパーナール・クラウセン?でも、もう亡くなったのに?死に方に疑わしい点でも……」
「死因は心臓発作だ。だが、不審な大金を遺したんだ。その出所を調べている」
「大金ってどのくらい?」
「八千万クローネを超える現金が別荘に保管されていた」

亡くなった大物政治家の別荘から10億分の外国紙幣が見つかった。どこから入手したものなのか。検事総長から極秘調査するよう依頼を受けたヴィスティング警部だが、その直後に別荘が放火されて……というお話。

「特定の鍵穴に合う鍵を見つける作業が捜査である」とはよく言ったもので、ひとつひとつ可能性を潰し、積み上げたもののおかげで謎が解けるという展開が大変良かった。特に中盤以降、サスペンス展開も加わって目が離せない。もっとセキュリティ意識持てよとは思うけど。
お金の話から犯罪絡みは想像していたけど、思ってもいない方向に話が進んでいって、最後まで面白かった。このシリーズはいいな。

 

 

葉山透「9S<ナインエス> XII true side/ XIII true side」

10年ぶりのシリーズ続編にして完結編。面白かった。

12巻は、これぞナインエスと言っていい、由宇のカッコよさ全開でした。
グラキエスという遺産絡みの問題によって、人類滅亡まであと四日に迫る中、彼女がやってくるだけで、あっという間に解決していく様が痛快で仕方ない。
才能があると自負する人たちの劣等感を刺激していきながら、本人は無自覚であるという、いつものパターンは最後まで健在でした。

 

13巻に入ってからは、勇次郎との対決と言っていいかな。
いろいろと曖昧というか、概念的なところが多いので、盛り上がり切れなかったところもあったけど、闘真の戦い(いろんな意味で)、何より最後にナインエスに戻ってくるところが、本当に良かった。
最後まで面白かったです。