大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

リン・メッシーナ「公爵さまが、あやしいです」

ハウスパーティの夜、ひょんなことから発見した死体の側に、才色兼備で有名な公爵がいた。自分が殺したのではないと言うが……という19世紀英国を舞台にしたコージーミステリー。

 

これはたしかに公爵さまがあやしい。

不自然な嘘をつくし、身分差があるからしょうがないとはいえ、鼻持ちならない態度をとるので、そりゃ普段は内気な主人公も反発するわな。

協力すればいいのに、互いに自分の方が賢いと思って、相手を出し抜こうとするやり取りが妙に面白かった。いや、危ないんですけどね。

謎解きは物足りなさがあるけど、次第に惹かれていく(?)ふたりの距離が大変良いものでした。ケンカップルになるのか、両片思いになるのかわかりませんが、シリーズは続いてるみたいなので、続きも読んでいきたい。

阿部暁子「金環日蝕」

知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風が、その場に居合わせた高校生の錬とともに、取り逃がした犯人を追うお話。

探偵側といわゆる犯罪者側の両面が描かれているけど、何より恐ろしいのが、犯罪者側でした。普通の人が、ほんのちょっと踏み外したら、貧しい暮らしからほんのちょっとだけ抜け出そうとしたら、転がり落ちてしまう。詐欺の受け子・下調べというのは、ギリギリ罪の意識が薄いんでしょうね。このほんのちょっと具合が怖いし、やりきれない。犯罪っていうのは、ほんと近くにあるんだなあ。
それにしても、たったひとつの事実から、いくつかの話が一気に裏返っていく展開はすごかったな。構成の妙でした。
主人公含めて、どこか危うさを感じさせる人たちばかり出てきて、不安しかない始まりだったけど、最後はちゃんと落ち着いたので良かった。このコンビで別の話も読んでみたいな。

 

 

ある行旅死亡人の物語

ネットニュースを読んで、何かよくわからないけどミステリーだと思ったのが、読もうと思ったきっかけ。

 

nordot.app

 

書籍は、記事をより詳しく書いていますが、調べても名前以上のものが出てこない人をどうやって追うかという詳細が面白い。

事件性がないので警察の手は借りられず、ただただ地道に聞き込みを続け、色んな場所で声をかけ種を撒き、ほんのちょっとしたところから、辿って辿っていく。珍しい名字じゃなかったら、ここまでいけなかったかもしれませんね。いやあ、おもしろい。

序盤はミステリー調でしたけど、中盤からはこの人はどんな人生を歩んでいたのかというお話になり、それも面白かった。ただ、小説ではないのでスッキリした終わりにならないのが残念。

彼女が誰なのかというはわかったけれど、大きな謎は残ったままだし……面白かったけど、もやもやする。

 

 

荒木あかね「此の世の果ての殺人」

あと2ヶ月で小惑星が日本に衝突し、世界が滅びようとしている中、教習所に通う主人公は、教習車のトランクに死体が詰められていることを発見して……元警察官の教習所教官と生徒が殺人事件を追うお話。第68回江戸川乱歩賞受賞作。

もうすぐ皆死ぬのに、なぜ人を殺すのか。誰が何のために。whoとwhyですね。

元警察官の教官が、ホームズかっていうぐらい観察眼があって、序盤はぐいぐい引っ張っていき、やる気ない主人公がなんだかんだ付き合っていく、と思ってからの展開に目を引く。

途中で出会う人達のキャラクターや生き方がとても良かった。終わりそうな世界だからって、これまでの人生の物語があるんですもんね。
世界が終わるのは確定しているけれど、読後感良かったです。

 

片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~

剣の腕はあれど活かせぬまま中年になった男が、騎士団の特別指南役に推薦され、自責の念にかられながら活躍していくお話。
なろう既読、書籍版は未読。マンガは、なろう版から結構変わってるけど、テンポいいし、強い人はちゃんと強さが伝わる。良い編集ですね。

1巻から5巻まで一気に読んだけど、5巻は特におっさんが強くてかっこいい。めっちゃ盛り上がったところで終わってしまったので、早く続きが読みたい。

Webでも読めるのでぜひ。

youngchampion.jp

 

 

 

 

 

 

フレディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

様々な人種が集い、見えない階級があるイギリス。そんなイギリスで子育てしている著者フレディみかこが、元底辺中学校に通う子どもと共に、差別やいじめなどに悩みながら乗り越えるエッセイ。というかノンフィクションかな。

 

子どもは身近な大人の言動をみて行動するから、何の気無しに差別してしまうんだけど、なんでこういうことをするんだろう?と母ちゃんに相談し、友だち・同級生たちの間を取り持っていく、その姿がかわいくカッコいい。でも難しいよね。施しになると傷つけるし、マルチカルチュラルは、より危うい。

 

先進国のイメージがあるけど、緊縮により貧しい人たちが教育をうけることが難しいというのは、思った以上に深刻でした。教員がソーシャルワーカー的に下支えしないといけない環境は……これはこれからの先進国の未来なのかすでに来ている世界なのか。

とはいえ、コミュニティの強さは流石で、何とか道を切り開いて欲しいと思う。

良い本を読みました。

 

 

井上真偽「アリアドネの声」

震災により地下に取り残された女性を助けるため、ドローンで探索することになったが、その女性は見えない聞こえない話せない。どうやって誘導するか、と言うお話。
時間との戦い、優先順位の問題、一歩間違えたら終わるという緊張感。無理じゃないと言い続けても、次から次へと問題が発生していく展開に、作者は鬼だと思いました。
ラストは、そういうことかと全てがつながるミステリーに驚き。