大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

阿部暁子「金環日蝕」

知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風が、その場に居合わせた高校生の錬とともに、取り逃がした犯人を追うお話。

探偵側といわゆる犯罪者側の両面が描かれているけど、何より恐ろしいのが、犯罪者側でした。普通の人が、ほんのちょっと踏み外したら、貧しい暮らしからほんのちょっとだけ抜け出そうとしたら、転がり落ちてしまう。詐欺の受け子・下調べというのは、ギリギリ罪の意識が薄いんでしょうね。このほんのちょっと具合が怖いし、やりきれない。犯罪っていうのは、ほんと近くにあるんだなあ。
それにしても、たったひとつの事実から、いくつかの話が一気に裏返っていく展開はすごかったな。構成の妙でした。
主人公含めて、どこか危うさを感じさせる人たちばかり出てきて、不安しかない始まりだったけど、最後はちゃんと落ち着いたので良かった。このコンビで別の話も読んでみたいな。