大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

WORLD END ECONOMiCA(2) / 支倉凍砂

1巻から四年後、精神的なショックから体の一部が動かなくなったハルが、再び立ち上がるまでを描くお話。

投資から離れたハルが、再び投資の世界に戻ってきたのは、支えてくれた人たちの思いと、四年前の後悔があったからですが、他の人の経験を通じて、過去の自分を見直すってのは、なかなかに重いものがあるなあ。一歩引いてみることができれば……というのは、当事者じゃ無理なんでしょう。

血が凍るような思いという比喩表現はありますが、ハルの経験はまさにそういうものだってのが、クリスの投資失敗から伝わってきて、背筋がぞくぞくしちゃう。

ただ、クリスの頑張りが伝わってくれば伝わってくるほど、不憫でしょうがない。ま、ハルからしたら、ハガナの存在ってのは、楔のように突き刺さってるからなあ。

それにしても、今回終盤の展開は恐ろしいものだった。投資の世界から、いうなればかたき討ちをしにいく過程で、ようやくたどり着いたと思ったら……これが力の差か。歯がゆいというよりも、あきらめが先に来てしまいそうになる。マネーゲームは恐ろしい。

さて、次で最後になるわけだけど、強敵の話もさることながら、ハガナの話がどうなるのか楽しみ。

WORLD END ECONOMiCA (2) (電撃文庫)
 

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D坂の美少年 / 西尾維新

生徒会長候補のひき逃げ犯を追うお話。

語り手の眉美が大変クズでした。はじめのころはもうちょっといい子だったはずなのに……でも、なんていうか、愛すべきバカ的な感じだから、楽しいんだけど。

生徒会長候補のひき逃げ犯を追ううちに、思いもよらぬ展開が待ち受けていましたが、楽しくもシリアスに感じたのは、美少年探偵団が「今」しかできないことだっていうことが見えてしまったからかなあ。

いつかは終わる時がくるというのは、わかっていることだけど、大人になるって言葉で終わらせるのは寂しい。

でも、だからこそ、今この時を全力でっていうのが、美少年探偵団らしくていい。

いやー、いいなー、これ。どこまで続くんだろう?

D坂の美少年 (講談社タイガ)

D坂の美少年 (講談社タイガ)

 

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ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり / 櫛木理宇

初デートが成功したことで、かえってギクシャクしてしまう二人を見守りつつ、オカ研に寄せられる依頼を解決していくお話。

これ、読者は森司の心情が見えるからいいけど、こよみからしたら、いきなり挙動不審になるんだから、デートの時に何かしちゃったのかと不安になっただろうなあ。まっとくもって罪作りな男です。

ふたりとも可能性があるかもしれないと思いながらも積極的に動けないのは、別の人の恋物語について語った時に出てきましたね。もし告白して関係が終わってしまうぐらいなら、今のままでいたいと。そりゃなかなかない進展しないわけですが、何かとオカ研の人たちがケツをたたいてくれるおかげで、一歩一歩着実に距離を縮めてるのがわかって微笑ましいったらない。

というふたりの恋愛模様ばかり気になっていましたが、今回は怪現象もおもしろかったな。恨みが発端といってもいい事件が三つありましたが、やっぱ人の思いってのが一番怖いよなあ。それと、誤解であっても一度広まった出来事は、その後真実によって上書きされることがない(少なくとも、なかなかされない)というのも、別の意味で恐ろしかった。

さて、そろそろ二人の関係が変わってほしいと思うわけですが、それにはやはり邪魔が入らないとダメかしら。あるいは、こよみちゃんに頑張ってもらうしか……

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ナイツ&マジック(7) / 天酒之瓢 

仲間を逃すために、大森海で迷うことになったエルとアディが、巨人族同士の争いに巻き込まれるお話。

いつものメンツが出てこないのはちょっと物足りなくもあるけれど、どこにいってもエルはエルであることがわかるお話だったところには満足。義理とか情ではなく、幻晶騎士を作る/動かすためにしか行動してないもんなあ。巨人族同士の争いに介入したのも、故障したイカルガに手を出されたからだし。あのシーン、大好き(笑)

材料も技術もない見知らぬ土地で、新たなる幻晶騎士を作るべく動くエルの行動は、どう考えたって変なんだけど、でもエルだからしかないと納得してしまう不思議。さすがにイカルガほどのものは作れなかったけれど、間に合わせでもいろいろ作る情熱が素敵。

引っ張り込まれるアディは……でも結構いい思いをしてるよね。妄想が暴走してたけど。

いつもほどの無双が見られなくて残念ですが、これは後々にとってあるのでしょう。続きが楽しみ。

ナイツ&マジック 7 (ヒーロー文庫)

ナイツ&マジック 7 (ヒーロー文庫)

 

貴族探偵 / 麻耶雄嵩

ドラマをみた人たちの評判が良かったので読んでみた。 

タイトルから、貴族が探偵するお話なんだろうなと思ってたら、合ってたけど、違ってた。 

さまざまな事件に趣味で介入して(強力なコネで現場の警官を従わせて)、本人は優雅に紅茶を飲みながら美人を口説き、執事やメイドが情報収集を行って、というところから、いわゆる安楽椅子探偵なのかと思ったら…… 

 

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

 

これが探偵なのか?と、登場人物ならずともツッコミたくなるけど、でも必ず解決するという意味では探偵か。 

何とも言えない皮肉だけど、ちゃんと面白いのは、コミカルな設定でありながら、謎解きがしっかりしてるからだろうなあ。「こうもり」にはだまされた。思わず読み返したけど、ちくしょう、嘘はついてないでやんの。 

どのお話も面白かったので、続編も読む。 

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失踪者(上)(下) / シャルロッテ・リンク

元ジャーナリストが、5年前に失踪した幼馴染についての記事を書くために、過去を振り返るお話。

事件を追う元ジャーナリストの視点だけでなく、いくつかの視点が入れ替わり立ち代わりで語られるので、初めはちょっとたるいんだけど、関連が見えてくると止まらなくなる。

調べているうちに、幼馴染は本当に死んでいるのか、それとも姿を隠しているだけなのか、生きているならどこにいるのか、といくつか疑問が出てきて、調査が進んでもどの可能性も捨てきれないから、困るんだ(何がだ)

さらには別のところから殺人事件が絡んできて、だんだんと緊迫感も高まってくるし、一区切りついたと思ったら……みたいな展開もあって、最後まで引き込まれました。っていうか、みんな嘘つきすぎですよもー。

これだけいろんな人が出てて、好ましいと思える人がいないってのも珍しいな。

失踪者〈上〉 (創元推理文庫)

失踪者〈上〉 (創元推理文庫)

 

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失踪者〈下〉 (創元推理文庫)

失踪者〈下〉 (創元推理文庫)

 

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ひとくいマンイーター / 大澤めぐみ

友人を殺された女子高生が、復讐するため魔法少女になったお話。

あー、これいいな。すごくいい。

はじめは、自称・魔法少女が何をやっているのかよくわからなかったんだけど、少しずつ見えてくるにつれて、彼女の内面が見えてくると……きゅんとなる。ああこれはあこがれの人への思いが、魔法になったのかと。

この魔法がいいんだよなあ。能力的な意味もあるんだけど、「女の子は魔法が使える」みたいな意味合いでもあって、思いが人を変化させるって意味では、たしかに魔法なわけで。

殺された少女との関係や、新たに友達となった少女との距離の変化など、閉じていた少女の意識が少しずつ変わっていくさまは、何とも言えない青春模様でした。

著者の前作「おにぎりスタッバー」の前日譚でもあるので、読んでる人はなお面白く感じるんじゃないかな。

ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫)

ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫)

 

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