大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

(仮)花嫁のやんごとなき事情 未来へ続く協奏曲 / 夕鷺 かのう

本編終了後の後日談短編集。

落ち着いたお話が多かったですが、初っ端がコミカルすぎてヤバかった。

ほんとうにほんとうの初夜を迎えることになり、でも初夜って何をすればいいんだろう?という花嫁さんが、周囲の人にどうすればいいのかを聞くというね。

うっすらはわかっているというのが、教える側としたら面倒というか、ごまかすことが難しくなり、でもどんなに踏み込んでも、おしべとめしべ的というか、凹凸とかそんな感じでしか言えず、結局花嫁さんに理解されないという展開に笑いが止まらない。

ま、旦那さんからしたら、恥ずかしくも、そんな妻が愛おしく感じちゃうわけですが。

全体的にこの短編集では、デレッデレな夫の姿を見せてくれたクロウだったなあ。妻にもそうだけど、子供にも。いや、子煩悩にはなると思ってたけど、なるほどこうなりますかとニヤリとさせられる。過去のことから、家族に対して、思うところがあっただけに、実際に大切な人が傍にいると……という変化がよかったです。

兄の恋の行方には、似た者同士の譲り合いにいらいらしつつも素敵だなと想ったり、ちょっと切ない兄弟のお話もあったけれど、未来への幸せを感じられるお話ばかりで、とても良い最終巻でした。

(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~未来へ続く協奏曲~ (ビーズログ文庫)

(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~未来へ続く協奏曲~ (ビーズログ文庫)

 

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おこぼれ姫と円卓の騎士(16) 反撃の号令 / 石田リンネ

クーデターから間一髪逃れたレティが、レティに仕えるものたちが、副題通り、反撃開始するお話。

いやあ、すごかった。制限された状態の中、わずかな情報をもとに、仲間を信頼して動くレティたちの行動に息をつくのが精一杯。

機会を作るために、コツコツと積み上げていっても、先を読まれて崩されていくけれど、ほんの僅かな綻びと、レティたちを信じる人達の力によって、綻びを広げていく手腕が素晴らしい。

むろん運もあるけれど、ようやく土台が出来上がって、一息つけました。ってところで、気づいたらエピローグ。一巻まるまる使ったのか。そんな長くないのに、読み終わったら、すっごい疲れたな。

どうやら次で決着がつくそうです。最終巻か。表紙の二人が、表紙のような関係を、隠すことなく作り上げられる未来でありますように。

おこぼれ姫と円卓の騎士 反撃の号令 (ビーズログ文庫)

おこぼれ姫と円卓の騎士 反撃の号令 (ビーズログ文庫)

 

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「貴方、わたくしのように面倒な身分と面倒な性格を持つ女性を好きになるなんて、趣味が随分と悪いわね」

「そうか? 寧ろ、面白みのないぐらい普通の趣味……というか、良い趣味をしているつもりだ。こんなに近くに、綺麗で、お人好しで、可愛い人がいたら、好きになって当たり前だろう?」

 

おかえりの神様 / 鈴森丹子

葉月さんの感想をみて手に取りました。

ついてないときに思わずしてしまう神頼み。そんな時に本当に神様が現れたら……恋に悩む男女が繰り広げる連作短編集。

これはいいなあ。ほんのり温かいお話だ。

おじいさんがアレする昔話で出てくる山の神や、どんぶらこな話で出てきた川の神などが、フリーランスとして人と触れ合うお話なんだけど、それぞれ狸やビーバー姿なので、どうにも微笑ましくなってしまう。みんな自称神様なんて信じないしね。

でも、神様といったって何をするわけじゃなくて、はっきりしない心の内を、あるいは隠している心の内を促して聞いて、そう聞いてあげるだけなんですよね。ただ、そのことでちょっとすっきりして、一歩進めるようになるというのが、人と神様の距離感として素敵だと思います。

この人とこの人に縁ができて、その知り合いが別の場所で縁ができる。 そんな縁にほっこりしました。

続編も読んでみる。

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りゅおうのおしごと(5) / 白鳥士郎

最っ高に素晴らしかった! 何度熱さに奮えて、何度熱さに涙したか。

最強の名人との対決は、これまで自分が積み上げてきたものを崩されるような戦いで、これが本当に重い。

追い詰められていくにつれて余裕がなくなり、八つ当たりと分かっていながら、まき散らすしかない悪循環。いくら将棋が強くても、そこはまだ17歳なわけで。

そんな焦燥にかられる彼の視界を開くために戦った人の覚悟に、涙せずにいられなかったですよ。いやもうほんと桂香さんは素晴らしかった。むろん彼女だけでなく、姉弟子も、弟子も、彼を支えてて。

才能だけでなく周囲の支えが彼を立たせた、そのシーンが奮える。

戦う人のすべてを吐き出す戦いは、マジすごかった。同じ高みにいる人同士だからこその戦いに拍手を送りたい。

あとがきの一行目を読んだとき、これで終わりか!と残念に思いつつも、納得してしまったんですが、ちゃんと読んだらまだ続くみたいなので、このあとどうなるか楽しみです。

りゅうおうのおしごと! 5 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 5 (GA文庫)

 

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横浜駅SF / 柞刈湯葉

 

いつも工事ばかりしてる横浜駅というところから着想を得て、もしも改築・増築を繰り返した横浜駅が日本を覆い、人類を支配してる世界で、スイカを持たずエキナカに入れない青年が、18切符を手に入れてエキナカに入っていくというお話。

この設定だけで面白いよなあ。

スイカを持たぬ人をはじく自動改札や慇懃な駅員、エキナカしか知らない人たちとの出会いなどなど、頼まれごとを目的としながら、自分探しみたいな感じの旅は、読んでるこちらも興味津々になって引き込まれる。

正直彼のお話がすっごい面白かったので、横浜駅の浸食と戦ってるJR九州の人の話は、あまり……だった。

それぞれの話をもうちょっと深く書いてくれたら、もっと面白かったんじゃないかなあと思うけど、それでもきれいに終わってたので良かったです。もう一冊出るのであれば、そっちも読んでみたい。

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

 

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アクセル・ワールド(17)-(19) / 川原礫

 加速研究会の黒幕を暴くために、ネガ・ネビュラスが動くお話。

他の勢力との調整やアクセルワールド世界のさらに深い話などがあり、面白くはあれどやや盛り上がりに欠けるかなってところで、19巻ですよ。盛り上がってきました。

加速研究会へ仕掛ける直前ですが、これに期待が膨らみます。なんせ、強敵と書いて友と読むような人が、共に戦う仲間になるんですからね! これに熱さを感じなかったら嘘になる。気づいたら、ネガ・ネビュラスがずいぶん大きくなってるなあ。

かつての仲間が持ってきた話も大きかったけど、歯切れが悪いというか、肝心のところは話してくれないので、ちょっとモヤモヤする。そのあたりは、加速研究会との戦いが進むにつれて明らかになるのかな。

 

 

 

 

ディエゴの巨神 / 和ヶ原聡司

禁忌の陰陽術を研究していた主人公が、陰陽術の使い手や教会から逃れるために、新大陸遠征軍の船に乗り込んだが、新大陸で待ち受けていたのは、巨神と水の檻にとらわれた少女だった……というお話。

これはいいボーイ・ミーツ・ガールでした。

新大陸発見ものとしてのワクワクさはなかったんですが、渡ってきたものと先住民との軋轢と、興味の対象である陰陽術のためなら、そんな軋轢をものともしない主人公のまっすぐさがいい。まあそうなってしかるべき状態だったから、先住民との出会いは、ある意味救いだったもんなあ。

文化の違いもあり、衝突してしまうふたつの勢力は、主人公からすると侵略する側が悪に見えるけれど、むろん言い分はあるわけで、単純に悪と決めづらいものがある。

とはいえ、やり方が汚く見えるのは、単巻ものの短さゆえかな。これたぶん全三巻ぐらいで書かれるお話だと思うんですよ。読んでる間は楽しかったけど、あれってツッコミどころが結構あったので、両方の事情をもっと見せてくれたら、もっと面白くなったんじゃないかなあ。  

ディエゴの巨神 (電撃文庫)

ディエゴの巨神 (電撃文庫)

 

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