大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

ある小説家をめぐる一冊 / 栗原ちひろ

 「田中くん、君、まさか、私を健康にしたいのか?」

これは面白かった。若き女流作家・些々浦空野と彼女の担当編集になった田中庸が遭遇する不思議な事件を描く物語。

怠惰な作家と勤勉な編集者というコンビのやり取りがとてもコミカル。はじめはファンタジーな物語だと思っていたのに、些々浦が大変だらしなくて、原稿を書いてもらうために、あれこれ世話を焼いている編集者を見ていて、これ介護話?と思ったのは内緒である(誰に)。

それにしても、描写がすごい。現在を見ているのに、地続きで幻想が入り込んでくるので、気持ちが不安定になるんですよ。怖いのではなく、地に足がついてないというか、読んでいてなんか不安になる。 これが奇妙な心地よさというか、気持ち悪さというか、引き込まれる感じ。

物語を書くと、周囲の人に不幸が訪れると思ったことから、なかなか書き出せない作家に対して、編集者ではあるけれど、それ以上に読者としてまっすぐな言葉を伝えて、作家の心を動かす田中庸の関係が良かったです。

作中の物語も面白かったし、またこのコンビの活躍を見たいな。

ある小説家をめぐる一冊 (富士見L文庫)

ある小説家をめぐる一冊 (富士見L文庫)

 

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