大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

ジェフリー・ディーヴァー 「エンプティー・チェア」

リンカーンライムシリーズ第3弾。ノースカロライナ州の田舎で起きた女子学生連続誘拐事件に、たまたま訪れていたライムとアメリアが挑むお話。

普段と違う環境、いわゆる「陸に上がった魚」状態のもどかしさたるや。機器もそうだけど、一人で捜査できない以上、チームワークの大事さが浮かび上がってく。っていうか、警察官らしからぬ人たちや地元の札付きが邪魔すぎますね、これ。

ただ事件が必要以上に拗れてしまったのは、ライムとアメリアの関係の変化で。手術に関しての立場の違いが、事件の判断にも影響するあたりに、二人の関係性に関する想いを感じる。

事件の結末で、ああいうのでも司法取引できちゃうあたり、なんていうか、アメリカって感じ。

 

 

とくめい「アラサーがVTuberになった話。」

ブラック企業で心身が病んでいたところを、妹に勧められてvtuberになるお話。VTuberの世界はぜんぜん知らないけど、面白かった。気づいたら最新の4巻まで買ってた。

Vtuberというだけで、デビューからアンチに絡まれて叩かれまくりで不憫でしょうがないんだけど、主人公がぜんぜん気にしないのが妙にコミカル。ブラック企業で死にかけたことに比べたら平気というカードは最強過ぎる。声はいいけど、話はさほど面白く無いという低温スタイルが、心地良い不思議。

章が変わるたびに掲示板のスレッドが出てくるんですが、これがまた面白い(読みづらいけどね)。外からはこう見えるのか的な感じで、前の章がまとめられててわかりやすい。初めは叩いていた事務所箱推しの人たちが、無為に燃やされる主人公同情して、だんだん推し始めるのも良かった。

1巻よりも2巻、2巻よりも3巻と、進むほどに良くなるのは、主人公が救われていくお話だからだと思う。

炎上を気にしないというのは、やはり心の何処かが歪んでいるからで、周りの人を守るべく、自分を盾にしすぎるところがある主人公が、事務所の先輩や同僚、他のVtuberとの交流などを経て、少しずつ心を開いていくさまがいいんだよなあ。周りの人たちの優しさが素敵なお話でもありました。

これは続きも読む。

 

 

 

 

 

まさきたま「TS衛生兵さんの戦場日記」

「戦争は更に十年は続くだろう。明日も生きていられる保証がないこの場所で突撃兵やって、十年間も生き延びられると思うか?」

前世でFPS廃人だった主人公が転生した先は、前世の知識など役に立たない本物の戦場だった……というお話。

これは過酷。死がこんなにも間近で、同僚も仲良くなったら、あるいはなる前に死んでいく。衛生兵としてほんの少しだけ優遇されてるけど、生き残ってるのはたまたまと言ってもいい。
前世チートなんてまるでない。
一番キツいのは、この戦争に終わりが見えないことですね。

今日生き残れても、一ヶ月先はわからない。そして10年続いてるなら、10年続くかもしれない。そりゃ諦めの境地になるわ。
まだ、どういう感じに話が進むのかぜんぜんわからないので、続きは読んでみたい。

 

カレン・M・マクマナス「誰かが嘘をついている」

同級生のゴシップを暴いて恨みを買っていたサイモンが、居残り授業の最中に亡くなり、教室にいた四人の生徒が容疑者となった。証拠はない。だが、彼ら彼女らはサイモンに秘密を握られていることがわかり……というお話。

 

面白い。

 

容疑者全員が語り手になるので、何かを隠していることはわかるので、それがバレたらというドキドキがもう。

他人から評価されることの価値が、SNS等によって強くなってしまった現代は、レールから外れることに対するプレッシャーが大きいですよね。学校という空間では特にそう。

このお話の良いところは、周りから爪弾きにされていく彼ら彼女らが、変わっていくところです。悔しさに泣くこともあるけど、周囲の圧に負けず、容疑者同士が手を取り合って前を進む姿は、青春だった。

初めはイケすかない人たちだと思ってたのに、最後の方には、お前らのうちの誰かが犯人とか絶対やめてくれと願いたくなるぐらい、好きになっちゃったもんなあ。この時点で負けですよ(何のだ)

ほんと面白かった。

 

青崎有吾「地雷グリコ」

これは最高に面白かった。

文化祭の出展場所を、抽選ではなくゲームで争うというお話から始まる連作短編5編。

ゲームと言っても難しいものではなく、既存のものに一捻り加えたものばかり。

地雷グリコでは、じゃんけんの「グリコ」に10段下がる地雷を設置できるというルールが追加されるんだけど、それだけでこんな心理戦になるとは。絶妙な匙加減。マジでカイジ

 

坊主めくりの神経衰弱や、じゃんけんにもう一つの手を加える自由律じゃんけんなど、どのゲームもいかに相手を自分のルールに乗せるかというお話で面白い。相手を読み切ったと思った後の逆転に次ぐ逆転劇が痛快だった。最高。

 

エルヴェ・ル・テリエ「異常【アノマリー】」

面白い。

何ら情報入れないで読んだので、こんな話になるとは予想外だった。解決らしい解決がないから、最後はモヤっとするけど、とはいえ面白いことに変わりはない。ストーリーテリングだったなあ。ミステリーではなく、SFですね。

 

何を言ってもネタバレになるので、気にする人はそっ閉じで。

 

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栗原ちひろ「サトリの花嫁2」

「私は勝手に医者になり、勝手に恋をいたします。けして、誰かを救うためではございません。私がそうせずにはおられないから、勝手にやるのです!」

恵まれない生活から救ってくれた旦那様の病気を治すために、サトリと呼ばれるほどの観察眼を駆使して医師を目指す主人公・蒼を描くシリーズの第二弾。

 

天涯孤独で差別されながら生きてきた前作とはまったく違う。その反動たるやもう。

城ヶ崎家に嫁ぎ、夫婦となった二人は、お互いがお互いを思って動き、そしてそのことに感謝と感動を覚える。これは側で見る執事の微笑みが止まらなくなるわけですよ。旦那様こと宗一の心の声がだだ漏れで、読んでるこちらも困ります。ニヤニヤし過ぎて。

 

今回は、吸血鬼騒動に始まり、温泉旅行でほんわかしたと思ったら、蒼の両親に関する事実が見えたりと盛り沢山。どの謎も真実の苦さが痛い。でもその苦さに立ち向かう蒼の覚悟が素晴らしかった。そうですね、今は城ヶ崎蒼ですもんね。

あとがきでボーナストラックと書いてましたけど、これは続けてほしいなあ。