大丈夫、積んでる

さうざんどますたーになれなくて

ロバート・クレイス「容疑者」

銃撃戦で相棒を亡くした刑事スコットが、事件の真相を追うために、同じく相棒を亡くした軍用犬マギーとコンビを組むお話。

これは良すぎでしょう。

人も犬も銃撃されたトラウマがあるので、警察の一員として動くには、本当は難しい。でもちょっとずつ絆を深めていき、事件に立ち向かう姿が胸にくる。まあ、上手くいきすきで、途中暴走気味だったけど。

事件の真相に迫るほどに、自身が追い詰められていく展開はまさに「容疑者」なわけですが、そんなスコットの不安を敏感に察するマギーという犬視点の語りも良くて、これは間違いなく「相棒」のお話でした。

続編も楽しみだ。

 

アレン・エスケンス「償いの雪が降る」

30年前、女児暴行殺人で終身刑となった老は、癌で余命わずかとなったため、介護施設に移された。大学の課題として、彼にインタビューするジョーは、老人の臨終の供述から事件に疑問を覚えて……と言うお話。

面白かった。

事件の関与を否定しながらも、判決には従った老人の真意が何なのか。調べていくうちに、そして臨終の供述として語られていく真意が、あまりにも重い。助けられなかった命というのは、ずっと心に残るんだろうなあ。

はじめはコンテンツとして老人を扱おうとする主人公に対しては、あまりいい印象がなかったけど、彼のおちゃらけた態度というのが、いわゆるヤングケアラーとしての苦悩の防御であることが見えてくると、印象が関わってくる。

自閉症の弟、やがて彼女となる隣の家のライラ、そして老人カールとの間に積み重ねていく信頼がとても良かった。老人が彼と出会えて良かった。

これは続きも読みたい。

 

バリー・ライガ「さよなら、シリアルキラー」

124人連続殺人犯の父に育てられた主人公ジャズ。自分は父とは違うことを証明するため、町で起きた殺人事件に挑むお話。

父の呪縛から逃れたいのに、父に育まれた洞察力が生きてしまうというのは皮肉でしかない。

犯人の動きがわかっても、連続殺人を止められないもどかしさが、次第にジャズを追い詰めていくという重い話だけど、暗くなりすぎないのは、青春ものでもあるからでしょう。
親友ハウイーは、身体の問題があるけど、それに負けない明るさがあり、何より恋人コニーが素敵だった。彼女がいなかったら間違いなく堕ちてた。

独りよがりなので、読んでいてイラッとする序盤だったけど、気づけば引き込まれるサスペンスだった。それにしても最後がすごい。この引きは続編読まざるを得ない。

 

 

ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」

もうね、読み始めた時点で不安しかないわけですよ。タイトルが「悲しみのイレーヌ」で、連続殺人の捜査を取り仕切る人の妻がイレーヌって名前なんですから。
そう意味では結末は分かっているも同然で、あとはどうなってそこに辿り着くかというお話でした。

ブラック・ダリア」等、実際に出版された小説が絡んでくるとか、捻りはあるけどそこまで引き込まれないかな、と思ってからの第二部で趣が変わる。一瞬、混乱した。すごいわ。

でもまあ、結末は……

これ続編があるらしいけど、どうするんだろ。

 

リン・メッシーナ「公爵さま、それは誤解です」

行き遅れ令嬢の事件簿シリーズ第三弾(ひどいシリーズタイトルだな)。公爵への想いを振り切るため、他のことで頭をいっぱいにしようと、知り合いが巻き込まれた殺人事件に挑むお話。

今回はめっちゃ楽しかった。主人公のベアトリスに振り回される公爵さまが!もうニヤニヤが止まらない。

前作で怪我をしたので、ぜんぜん会えないふたりでしたが、そのことが想いを募らせることになるというのは王道ですけど、良かった。
にしても、公爵さまへの想いを忘れるために他のことに没頭しようということで、殺人事件に関わろうとするのが、ベアトリスのおかしなところで。そりゃ公爵さまは放って置けなくなるよなあ。

読者として、公爵が彼女に興味を持ってるのはわかるけど、ベアトリスは身分違いだし勘違いしちゃダメと思ってるというすれ違いが大変良かった。

三部作としてきっちりまとまってたので、これで終わりかと思ったらまだ続くみたいなので、楽しみに待ってる。

 

ジェフリー・ディーヴァー 「エンプティー・チェア」

リンカーンライムシリーズ第3弾。ノースカロライナ州の田舎で起きた女子学生連続誘拐事件に、たまたま訪れていたライムとアメリアが挑むお話。

普段と違う環境、いわゆる「陸に上がった魚」状態のもどかしさたるや。機器もそうだけど、一人で捜査できない以上、チームワークの大事さが浮かび上がってく。っていうか、警察官らしからぬ人たちや地元の札付きが邪魔すぎますね、これ。

ただ事件が必要以上に拗れてしまったのは、ライムとアメリアの関係の変化で。手術に関しての立場の違いが、事件の判断にも影響するあたりに、二人の関係性に関する想いを感じる。

事件の結末で、ああいうのでも司法取引できちゃうあたり、なんていうか、アメリカって感じ。

 

 

とくめい「アラサーがVTuberになった話。」

ブラック企業で心身が病んでいたところを、妹に勧められてvtuberになるお話。VTuberの世界はぜんぜん知らないけど、面白かった。気づいたら最新の4巻まで買ってた。

Vtuberというだけで、デビューからアンチに絡まれて叩かれまくりで不憫でしょうがないんだけど、主人公がぜんぜん気にしないのが妙にコミカル。ブラック企業で死にかけたことに比べたら平気というカードは最強過ぎる。声はいいけど、話はさほど面白く無いという低温スタイルが、心地良い不思議。

章が変わるたびに掲示板のスレッドが出てくるんですが、これがまた面白い(読みづらいけどね)。外からはこう見えるのか的な感じで、前の章がまとめられててわかりやすい。初めは叩いていた事務所箱推しの人たちが、無為に燃やされる主人公同情して、だんだん推し始めるのも良かった。

1巻よりも2巻、2巻よりも3巻と、進むほどに良くなるのは、主人公が救われていくお話だからだと思う。

炎上を気にしないというのは、やはり心の何処かが歪んでいるからで、周りの人を守るべく、自分を盾にしすぎるところがある主人公が、事務所の先輩や同僚、他のVtuberとの交流などを経て、少しずつ心を開いていくさまがいいんだよなあ。周りの人たちの優しさが素敵なお話でもありました。

これは続きも読む。